IT・システム全般

受託開発からサービス(SaaS)へシフトできない理由

IT企業の支援をしていて良く聴く悩みの1つが「ビジネスをサービスモデルにシフトしたいのにできない」こと。今回はこの理由を少し掘り下げたいと思います。

この連載は主に、下請け(特に2次請け・3次請け)に限界を感じつつも、サービス(SaaS)などにシフトする方法が分からないという経営者向けです。

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受託開発が苦しい理由

顧客の依頼に応じてシステムを作る受託開発。
このビジネスモデルの特徴は、繁閑の差が大きいことです。
大型の案件を受注したり、案件を数多く受注したときには、あっという間に人が足りなくなります。

その一方で開発が終わってしまうと人が余ってしまいます。
ですから、繁忙期の稼働に合わせて正社員を雇うわけにはいきません。
忙しいときには業務委託や派遣を活用するのは、そのためです。

また稼働予測がしにくいことも特徴の1つです。
受託開発は顧客の都合によってスケジュールが前後しやすいのです。

顧客社内での稟議が通るのに時間がかかったとかでスタートが遅れたり、その割には開発終了時期は変わらなかったり。
このような場合は工期が短くなる分、人員を増やさねばなりませんが、それだけで上手くいくはずもありません。人員が増えれば、それだけ大きくなった組織の運営も大変になります。

本当は目の前の顧客のためにつくる、その顧客に合ったオーダーメイドの作品
これがスーツや靴だったら高級品で喜ばれるものですから、ビジネスとしても良いのですが。
なぜかシステムの世界ではオーダーメイドに「ありがたみ」を感じてもらえないのです。
それどころか、「動いて当然」「顧客のスケジュールに合わせて当然」という雰囲気です。

これは、今までの売り手(受託開発企業)が顧客の言いなりになりすぎて、自分たちが提供する商品・サービスの価値を説明できなかったことが一因でしょう。それと同時に、顧客側はシステム開発に対する知見がなさすぎて、「言ったもん勝ち」になっているのも事実です。

結果的に受託開発で利益を確保することが厳しくなってきました。これが受託開発を「苦しい」という経営者が増えてきた理由です。また、新しいサービス(SaaS)を企画・開発するにしても、現業の利益が充分でないため、人員を割り当てることができません。

便利やクラウドサービスが増えてくるにつれ、受託開発とクラウドが比較されることも増えてきました。ますます、受託開発だけを行う企業は、苦しくなっていくのではないでしょうか。

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受託開発とサービスビジネスの違い

そこで出て来るのが冒頭の悩みです。
「SaaS型(ソフトウェアをクラウドで提供。Office365が代表的)のクラウドサービスにシフトしたい(けどできない)」と。

この悩み、実は当然に起こることです。
受託開発型とサービス提供型ではビジネスが根本的に異なります
「月額課金モデルだから売上と稼働が安定する」という単純な話ではないのです。

まずはこの違いを挙げてみましょう。

極論すれば、受託開発には企画・提案が不要です。もちろん、良い提案をすることで、それを競争力にしている企業もありますが、受託開発というビジネスの根本は、顧客に依頼されたものをつくることです。

システムに対する要件は顧客が出してくれますから、受け手はその要件をもらい、言われた通りに作れば良いのです。特に2次請け、3次請けの企業になると「言われた通りにつくるだけ」「上流に意見するなんてとんでもない」と普通に考えていたりします。

しかしサービスを提供するためには、自分たちで企画する必要があります。
全顧客に同じシステムを展開するのが基本的なコンセプトですから、全顧客の要求を吸収できるようなシステムを企画し、顧客に提案していく必要があるのです。

従来、受託開発を続けてきた企業は、この「企画」が最初の関門になります。
自分たちで企画をしたことがないため、どうやれば良いのか?が分からないからです。

企画の中でも、迷いに迷うのが価格。
価格の付け方にも両者のモデルには違いがあります。

個別オーダーメイドの受託開発では、その案件ごとに価格を決めます。
「この案件は取りに行くから利益度外視で」
「この案件ではしっかりと品質と利益を確保で」
(クラウド)サービス型では、そういう意思決定ができなくなります。

クラウド型で提供するサービスの多くは価格をオープンにします。
全顧客で共通価格ですし、競合他社からもひと目でバレてしまうのです。

開発もプロジェクトとして一品ものを作り上げる体制から、全顧客共通のシステムをつくった後、運用しながら追加開発を継続していく体制へ。受託開発だけしてきた企業は、実はシステムの運用監視に弱いことが多いのです。

その他にも変わることだらけです(上記の表を参照)。
はっきり言って、ITを生業にしていること以外、全く異なるビジネスと言えるでしょう
オーダーメイドのスーツ屋さんが、ユニクロに変わるくらいの違いと言えば良いでしょうか。断崖絶壁を乗り越える難しさがあります。

この圧倒的な違いがあるから「サービスへシフトできない」という冒頭の悩みは、当然生まれるものなのです。ですから逆に言えば、サービスへシフトすることができたなら、大きく会社を変えることができます。

まとめ
  • 受託開発は繁閑差の大きい、難しいビジネス
  • 便利なクラウドが増え、比較されることも増えてきた
  • クラウド(SaaS)とは全く異なるビジネスモデル
  1. 受託開発からサービス(SaaS)へシフトできない理由(←この記事)
  2. サービス提供型ビジネス(SaaS)へのシフトで注意すべきスキルの差
  3. SaaSにシフトするために超えるべき「お金の流れ」
  4. SaaSが提供しているもの(価値)は何なのか?
  5. 実例から学ぶ、受託開発からSaaSへシフトするために大事なこと
  6. SESや受託開発からSaaSへ移行するための第1ステップ

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渋屋 隆一
プロフィール
マーケティングとITを駆使した「経営変革」「業務改善」を得意としています。コンサルティングや企業研修を通じて、中小企業の経営支援をしています。中小企業診断士。ドラッカーや人間学も学び中。趣味はトライアスロン・合気道。 詳細はこちらです。
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