IT・システム全般

映画「Winny」を観て考えた「イノベーションが生まれない理由」

映画「Winny」を観てきました。
ITに関わる者としても、個人的な興味としても、観ておきたかったのです。

Winnyとは

2002年に開発された、ファイル共有ソフトです。
AmazonやGoogleなど、特定の企業がプラットフォームを提供せずとも、個々のパソコンにインストールされたソフトウェアを通じて、ファイル共有することが可能になりました。

このように個々のパソコンが対等の関係(Peer:ピア)で通信することから、Peer to Peer(P2P)技術と呼ばれています。
プラットフォーマーに依存せずに利用できることから、注目を集めました。

(左がプラットフォームを活用したシステム、右がPeer to Peerのシステム)

なお昨今では、ビットコインやイーサリアムのような暗号通貨の基本技術となっているブロックチェーンが、このP2Pを活用しています。

ただ、Winny は悪用されてしまいます。
音楽や映画など、著作権で保護されるべきコンテンツが、Winny を通じて数多く広まってしまったのです。
そのことから、開発者である金子勇さんは、著作権法違反ほう助の容疑をかけられて、逮捕されてしまいます。

映画での言葉を借りれば、「包丁を発明した人に罪はない。包丁を使って人を殺めた人に罪がある」はずなのに。

ちなみに私にとって「Winny」は、ソフトウェアと法律(著作権)の関わりを強く感じた、初めての体験でした。(この頃は、ネットワーク・サーバーなどのインフラ系ITエンジニアとして働いていました)

イノベーションが進まない理由

この映画は、主に2006年の京都地方裁判所における罰金150万円の有罪判決までがメインです。
その後、この事件は2011年に最高裁で無罪が確定するまで続きます。

映画としては、開発者である金子勇さん・弁護士の壇俊光さん側の視点で描かれています。
天才プログラマーが、なぜ国家組織に潰されてしまったのか?と。

私は原告側の視点も、もう少し描いて欲しいと思いました。
なぜ、包丁を開発しただけの人を、ここまで厳しく追及する必要があったのか?と。

彼らが労力をかけてまで逮捕したのは、ちゃんと理由があるはずです。
双方の意見・視点を知った上で、それらを調整・統合していくことが大事なのではないでしょうか。

日本でイノベーションが進まない理由

この映画の第一印象は、「こんなことだから、日本からイノベーションが生まれないんだよな・・」でした。

既に述べたように、原告側の視点が少ないので、なぜ逮捕に至ったのか?がイマイチ分かりません。
何らかの陰謀・意図があるように描かれていますが、その理由は最後まで分かりません。

そして原告側が、本当に著作権や個人情報を守ろうとするのであれば、別のやり方があったのではないでしょうか。
「単に今までのルールを守らせる社会」から「適切なルールを運用できる社会」への転換です。

もし、原告側と金子さん達が協力して、法律とソフトウェア両方のアップデートを行うことができたなら?と考えずにはいられません。

実際、映画の中で金子さんは、ソフトウェアをアップデートすることで、良い方向に持っていけることを確信しています。
「たったコードを 2行追加するだけなのに」と、アップデートできないことを嘆いていました。

エンジニアがもっと輝ける社会に

新しい技術(包丁)が出てきたときには、その使い方(法律)を含めたアップデートが必要です。
ソフトウェアエンジニアと法律家の共同作業です。

この映画では、そういう共同作業は一切なく、単に警察・検察が国家ぐるみでエンジニアを叩いて、その才能を潰してしまった。
そのような視点で描かれています。

法律(ルール)というのは、何らかの前提条件をもとに生まれているはずです。
新しい技術(包丁)が出てきたときには、その前提条件が変わります。
ですから、技術(包丁)と法律(ルール)は同時にアップデートすることが求められます。

法律まで大きな話でなくとも、「会社のルールなんだから守れ」的なシーンをよく見かけます。
でも、そもそも何故、そのルールが存在するのか?を確認すると、「分からない」ということが少なくないのです。

今、ソフトウェアは、もっと社会に対する力を持っています。
ソフトウェアが社会に与えるインパクトは、Winny当時とは比べ物になりません。

だからこそ、新しい技術が出てきたときには、エンジニアがそれを試すだけでなく、法律家や経営者など、多くの人が関与していかねばなりません。
つまり、エンジニア以外も技術を学んでいかなければならないのです。
それが結果的に、エンジニアを輝かせることにもつながります。

以下、関連記事です。

プログラミング・コードやアルゴリズムが法律になる社会2人の哲人、ハラリとタンの対談を受けて。個人情報をどこまで守るか?活用するか?は国の戦略そのもの。今後、コードやアルゴリズムが私たちの生活を規定する法律になる。国や行政のシステムはオープンソースにすべきでブラックボックスにしてはならないと考えます。...
早くスマートコントラクトな社会が来て欲しい同じ違反をしているにも関わらず、そこに警官が居るか居ないか?で捕まる・捕まらないが変わるのは不公平だし、社会の欠陥だと感じています。それで危険運転が行われ、犠牲者が増えるのは良くないでしょう。私は機械的・自動的に検挙される仕組みが必要だと考えています。...

ちなみに、私が商品・サービス企画を支援するときには、必ず(デジタルに明るい)法律家のチェックを受けるように促します
(専門家をご紹介することもあります)
現代において、法律チェックなくして、Webサービスやアプリなどをリリースすることは、リスクが大きいからです。

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など、かつてより意識しなければならない点が増えました。

私たちは Winny のようにならないよう、技術も法律(ルール)も尊重しながら、事業を運営していきましょう!


【編集後記】
久しぶりすぎるブログ更新です。。
もう少し頻度を上げていきます。


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渋屋 隆一
プロフィール
マーケティングとITを駆使した「経営変革」「業務改善」を得意としています。コンサルティングや企業研修を通じて、中小企業の経営支援をしています。中小企業診断士。ドラッカーや人間学も学び中。趣味はトライアスロン・合気道。 詳細はこちらです。
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