RPA(Robotic Process Automation)への注目が集まっています。ルールやAI(人工知能)などを活用した業務の自動化・効率化ができることことから、パソコンやITが苦手な人でも価値を理解しやすいためでしょう。
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横浜市の報告書に見るRPAの正しい使い方
しかし残念ながら、「間違った使い方」が散見されます。どんなツールも間違った使い方をすると、効果を得るどころか逆効果になってしまいます。特にRPAは、間違った使い方をすると組織を改悪させる可能性も高いので、その点には十分な注意が必要です。
この記事では先日、横浜市が発表したRPAの有効性検証に関する共同実験の報告書を元に、RPAの正しい利用シーン・間違った使い方をお伝えします。
RPA(Robotic Process Automation)とは何か?
RPAは、非常にザックリ言えば、パソコン作業を自動化するソフトウェアです。規模の大きな組織で利用するものと、個人(パソコン単体)で動かすものがあります。ただ、この記事では、全てをひっくるめてRPAとします。
パソコンの操作を覚えさせたり、何らかのルールを設定することで自動化させることができます。「プログラミングの知識が不要」という触れ込みで広がっていますが、全く不要というわけではありません。ツールである以上、使い方は覚える必要があります。
MM総研がまとめた『RPA国内利用動向調査』によると、
- 国内企業のRPA導入率は32%、2018年6月調査から10ポイント増と導入が加速
- RPAの満足度は59%と高く、企業は業務負担の軽減や人手不足対策への効果を実感
という特徴があります。ただ数字に関しては年商50億円以上の企業がアンケート対象になっているため、本ブログの読者に多い中小企業とは、実態がかけ離れていると言って良いでしょう。
この調査で大事なことは、上手く活用できると、業務負担の軽減・人手不足対策への効果が得られるということです。
横浜市の報告書から読み取れること
さて、横浜市の報告書を読んでいきましょう。9ページから具体的な対象業務が挙げられています。
「サンプル」とありますが、これサンプルじゃなくて実態ですよね。。さらに10ページに進むと、具体的にRPAで自動化・効率化する対象業務が挙げられています。
11ページ以降に、上記7つの業務の具体的な流れが書いてあります。
で、申し訳ないですが、ツッコミどころが満載です。一言で言うと、RPA云々以前の問題で、業務の整理・整頓ができてないと断言できます。無駄な業務が多すぎるのです。
ただ、それをちゃんと理解した上で、根本解決に至るまでの「暫定策」としてRPAを使ったのであれば良いですが、その視点がなければ、永遠に無駄な業務が残されてしまいます。
横浜市の報告書に突っ込みを入れる
では具体的に突っ込んでみましょう。まずはサンプルの1番目。
出張旅費について、△△システムから出力された帳票をもとに□□システムに入力する作業。
現状はこのように業務をしているということです。
早速疑問が出てきます。
- なぜ△△システムと□□システムを、直接連携させないのか?
- システムの関係上、今すぐ連携できないとしても、帳票(紙)を出力せずに、CSVなどデータで出力させれば、人間が入力する必要はなくなるのではないか?
一度データ化されたものを、紙に出力してから、再度データ化している。明らかに無駄ですよね。データは、データのまま活用するのが鉄則です。人間が活用するため以外に、紙に出力することはNG。
どんどん行きましょう。2番目。は補助金申請事務です。
該当法人から申請書を受付、内容審査を行う業務。
図式化するとこのようになります。
わざわざ申請書類を紙で受け付けて、人の手間とお金をかけてExcelに入力作業を行っているのです。
- 申請する法人はデータを持っているのに、わざわざ紙で出力している
- 紙で受け付けているため、郵送費や持ち込むための時間・費用が、申請する法人の負担になっている
- 横浜市側では、申請書類(紙)を元に手入力する作業が発生するので、コストと時間が掛かる上に、入力ミスの恐れがある
申請する法人がデータを持っているのですから、データのまま受け付ければ良いのです。
次、3番目に行きましょう。
市職員の勤務時間を集計している事務。〇〇システムで出力されている帳票から対象職員を手入力で集計表に転記している作業。
また出た。これも同じで「帳票」「転記」これらのキーワードが出てきたらアウトです。
システムに勤務時間のデータがあるのですから、それをデータのまま扱えば良いのです。紙の帳票に出力してしまうから、人間の手作業が発生してしまうのです。他に7つの業務がありますが、長くなりそうですし、もうお腹いっぱいなので止めましょう。
こんな無駄だらけの業務に税金払っていると思うと、ガッカリします。(わたくし、横浜市民ですし・・)
RPAを利用する以前の問題
このように、実はPPAで自動化・効率化する云々の話ではなく、そもそも業務の整理・整頓ができていないことが、ほとんどなのです。その背景にある根本原因は、以下のようなものです。
紙の帳票を中心とした業務の組み立て
部分的にシステム化・データ化していくから、上の例のような惨劇が起きるのです。業務を一連の流れとして捉え、一度データ化したものは、基本的にデータのまま扱うことが必要です。
今や業務はデータ(システム)を中心に組み立てるものです。紙を中心に組み立ててしまうのは、ITリテラシーが低いからです。社員数名のスモールビジネスならいざ知らず、3万人以上が働く横浜市くらいの大組織であれば、ITリテラシーが低いというのは、理由になりません。
部門間の壁
横浜市くらい大きな組織になると、間違いなく部門間の壁が発生します。実際、私も事業者として、それを感じたことがあります。
この部門の壁がシステム連携ができなかったり、業務を一連の流れとして扱えない直接的な原因だと推測します。業務(つまり市民に価値を提供する流れ)を見ずに、自部門の役割や予算で動くようになると、組織も業務も硬直化してしまいます。
適切なRPAの活用方法とは?
では、どのような場面でRPAを活用すれば良いのでしょうか。
1. まず業務を整理整頓する
まずはRPA云々ではなく、日頃から業務プロセスを整理整頓しなければなりません。「この業務は顧客に価値を提供するために必要なことなのか?」を常に問いましょう。紙やハンコ、電話やFAXが日常的に使われている組織には、間違いなく無駄が大量発生しています。
無駄が残っているところにRPAを導入して自動化・効率化したとしても、それは臭い物に蓋をしただけのこと。根本的に臭いの原因を取り除かなければ意味がないのです。根本原因を放置したまま、RPAで表面的な問題解決したように見えてしまうのは不幸です。関係者が居なくなった後などに、問題が再発してしまいます。
まずは業務の整理整頓。この大前提に立ちましょう。
2. RPAの利用期限を決める
とは言え、いきなり業務を整理整頓できないケースもあります。システムの手を加えるのは、数年後にならないとできない、というようにです。RPAはそれまでの暫定対応として活用すると良いでしょう。
逆に言えば、RPAを利用するときには、「この業務に利用するのは、〇年〇月まで」と決めましょう。期限を決めなければ、いつまでも根本解決をせずに、放置してしまうことになります。
3. 社外が関与するところは、RPAの使いどころ
業務には、自社だけでなく、社外が関わることも多くあります。自社だけなら業務の整理・整頓ができても、社外が関わると、そう簡単には変えられないことがあります。
私の場合ですと、確定申告をするときには国税庁のe-taxを使うことになりますが、このシステムが非常に使いにくい。でも私が管理しているシステムではありませんから、問題解決ができないのです。
私は自分の分だけですから我慢しますが、何度何度も利用する税理士さんは、泣きたくなるでしょう。そういうときに、自動化できるのであれば、RPAが威力を発揮しそうです。
4. RPAは素早く、ピンポイントで活用する
RPAの導入に時間をかけすぎては本末転倒です。日頃から業務の整理整頓ができてれば、どの業務の負担が高いか?と、その原因は分かっているはずです。
大規模なシステム開発案件のように「まずは要件定義から」などというアプローチをするのは、RPAの本質を理解していないと言って良いでしょう。
素早く・ピンポイントの業務で成果を上げるのがRPAに求められることです。網羅的に業務を改善するのは、業務プロセスの整備だったり、システム開発の方でやるべきことです。
5. 例外処理にこだわらない
RPAを使い始めるとエラーが出ることがあります。しかし「エラーゼロ」を目指すと、RPAのルールをより詳細に定義するなど、細かな作業が多く発生してしまいます。
しかし上述の通り、RPAの目的はサクッと効率化・自動化の成果を得ることです。たまにしか発生しないエラーはそのままにして、人間が対応すれば良いのです。10時間かかる作業が30分になるのであれば、エラー対応に10分かかったとしても、大きな問題ではないはずです。
RPAの特徴を理解して、上手く活用したいですね。
- まずは日常からの業務の整理・整頓が重要
- 無駄な作業を自動化しても、根本原因が残ってしまう
- 短期的にピンポイントで成果を上げるのがRPAの本質
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